年末からまた超大物芸能人の性的スキャンダルが世間を騒がせている。口火を切ったのは、『女性セブン』1月2・9日合併号。「中居正広 巨額解決金乗り越えた女性申告トラブル」というスクープ記事である。それによれば、フジテレビの編成幹部A氏が昨年6月、中居氏と「芸能関係の女性」の3人で会食をセット、当のA氏は当日ギリギリになって会合をドタキャンし、女性は中居氏と2人きりで会う格好になり、その密室での会合で2人には「深刻なトラブル」が発生、両者の代理人の間では後日、総額9000万円もの「解決金」が支払われることになったという。
これを受け『週刊文春』も同じ日付の合併号に「中居正広9000万円SEXスキャンダルの全貌 X子さんは取材に『今でも許せない』と……」という後追い記事を突っ込んだ。女性セブン記事で「芸能関係」とされた被害者は、フジテレビの女子アナ(事件当時)であったことが明かされ、彼女から詳しく状況を聞いているフジ関係者らの証言で、Ⅹ子さんが事件翌日には、フジの幹部社員3人に性的被害を訴えたことが報じられている(ただしA氏を含めフジ幹部らは一様に事件について「知らない」「そんな事実はない」と否定した)。Ⅹ子さんは会社側のこうした冷淡な対応により、事件のPTSDで入院生活を余儀なくされたという。
今週号の文春は「中居正広 Ⅹ子さんの訴えを握り潰した『フジの3悪人』」というさらなる続報で追撃した。Ⅹ子さんの上司として被害の相談を受けた佐々木恭子アナなど幹部社員3人への直撃だが、幹部らはここでも否定したりはぐらかしたりするばかり。また『週刊新潮』も「中居正広9000万円スキャンダルで『フジ女性幹部』が対応を誤った」という後追い記事で追及に参戦した。
被害者のⅩ子さん、あるいはその上司の幹部社員A氏などの実名は、ネット上では広く拡散され、中居氏はこうした事態を受け9日に「お詫び」の声明を発表、(和解による)守秘義務があることから発信は差し控えてきたが、(当該女性との)トラブルがあったことは事実、などとして「(自身の)至らなさ」を謝罪した。テレビ各局や新聞も「トラブル」の発生や中居氏の当面のテレビ出演見送りを報道した。
それにしても一昨年のジャニー喜多川氏の事件以後、「芸能界タブー」へのスタンスを変えようとしつつあるテレビ各局だが、残念ながらその現実は相変わらずの腰砕けだ。今回の例で言えば中居氏と当該女性の間で和解が成立した、という一事をもって、これ以上の報道を差し控えるべきだという一部世論がネット上にあり、そうした声へのためらいや、同業他社への忖度がおそらくあり、テレビ各局の報道は極めて歯切れが悪いのだ。
他メディアに先行する文春記事を読み込めばわかる通り、今回の事件で追及すべき「本丸」は、もはや中居氏個人でなくフジテレビにこそある。自社の女子アナを過去何人も接待要員に「献上してきた」とされる疑惑、そして性的トラブルが発生するに至っても適切な対応をとろうとしない組織としての不作為。中居氏とⅩ子さんの1対1の問題は和解によって区切りが付けられても、未だ事件への責任を認めないフジテレビとⅩ子さんのトラブルに何ひとつ決着はついていない。ことと次第では、社長以下幹部数人の引責辞任も避けられない問題だし、この際テレビ各局は「中居正広問題」より「フジテレビ問題」をこそ戦闘正面に据え、のらくらした言い逃れを許さない徹底追及に取り組んでほしい。
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三山喬(みやまたかし) 1961年、神奈川県生まれ。東京大学経済学部卒業。98年まで13年間、朝日新聞記者として東京本社学芸部、社会部などに在籍。ドミニカ移民の訴訟問題を取材したことを機に移民や日系人に興味を持ち、退社してペルーのリマに移住。南米在住のフリージャーナリストとして活躍した。07年に帰国後はテーマを広げて取材・執筆活動を続け、各紙誌に記事を発表している。著書は『ホームレス歌人のいた冬』『さまよえる町・フクシマ爆心地の「こころの声」を追って』(ともに東海教育研究所刊)、『国権と島と涙』(朝日新聞出版)など。最新刊に、沖縄移民120年の歴史を追った『還流する魂: 世界のウチナーンチュ120年の物語』(岩波書店)がある。